真保裕一著 『デパートへ行こう』

真保裕一著 『デパートへ行こう』

4年前に会社が倒産

再就職先も見つからず

派遣会社に登録して糊口をしのぐうちに

妻が始めたフラワーアレンジメントが当たり

離婚届一枚を残して妻と一人娘はさっさと家を出て行った

娘のためにはそれも仕方がないと諦めて

月に一度、娘に会うために金と時間を作っては出掛けて行った

会うのはいつも駅前のデパート

男にとってデパートは夢のワンダーランド

七歳の時に父を交通事故で亡くし

母一人子一人の家族の思い出そのものだったのに

「デパートなんてダサい!」と娘に決め付けられて

尾羽打ち枯らした中年男

もはや人生これまでと思いつつ

最後の思い出にと老舗のデパートへ向かう

「そうだ……。今日はデパートへ行こう」


そのデパートに勤める女性〈真穂〉は

ある決意を胸に勤務を終えたデパートにこっそり舞い戻り

終業時間を待って闇に潜む


家出少年・少女のコージとユカは

所持金を使い果たして

ベッドも、食べ物も、着替えも何でもあるからと

遊び半分にデパートに忍び込む


支店に飛ばした社員が

赴任先の市長と起こした贈収賄事件の責任を追及され

他店との合併話まで持ち上がって

老舗の看板を支えきれなくなっている当デパートの社長


何の理由かヤクザとトラブルを起こし

ナイフを手にした相手を返り討ちにしたものの

自分も深手を負ってしまった元警官

何の因果か

そんな脛に傷持つ連中が次々とデパートに終結して

助けたり助けられたり

逃げたり追いかけたり

勘違いや疑心暗鬼に翻弄されながら

深夜のデパートで静かな騒動を繰り広げます



真っ暗なデパートの中で

時折巡回に回る警備員に見つからないように隠れながら

大勢の出演者が上へ行ったり下に降りたりするので

誰が誰やら判らなくなりますし

こっちの事情とあっちの事情が絡まりあい、もつれ合って

更に複雑になって行きますから

おおよその筋立てが掴めたら

どんどん先へ読み進んでしまいましょう

最後にはすっきり解けて

心がホッコリとする大団円が待っています


ところで

冒頭に出てきた中年男のような思い出ってありませんか?

子供の頃、たぶん小学生くらいの頃は

浜松にあるデパート『松菱』

に連れて行って貰うのが、本当に楽しみでした

各階ごとに様々な商品が所狭しと並べられ

屋上には硬貨を入れると動く乗り物や射的ゲームなどがあり

広い食堂で食べた「お子様ランチ」に立っている旗を持ち帰るのはお約束

帰りがけには

地下のお菓子売り場で「カステラ饅頭」を焼く自動機械に見入ったものでした

ですから『松菱』が閉店するというニュースは

初めは信じられませんでした

しかし、文中でこの男が述懐しているように

『百貨店』という商業施設は、今の時代にはそぐわないのでしょうね


ミステリー仕立ての内容につられて手に取った本でしたが

そんな幼い日の思い出が蘇る一冊でした


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